06
というのが、実は一週間前………
勿論、銀時には言っていない。
言う機会も特に無かったし、言うとなったらかまっ娘倶楽部にバイトに行ったことから説明しなければならないし、どうやらあまり女装でのアルバイトに関しては銀時はいい顔をしないからな、何故だか。
言っていないし、言いたくもないし、言わなくとも疚しいことなど何もないし、疚しかったらもっと言えないし…………。
まずい。
さすがにまずい。
副帳殿は後ろからものすごい早さで向かってくるし、一番隊隊長殿は俺の前にいるし………。
八方塞がりか!
いや、上と下が空いてる!
下は、手ごろなマンホールが無い。
上か?
だが、ここで俺の華麗な跳躍力を披露して良いものだろうか。しかも女物の着物だ。何処まで融通が効くか。
「ヅラ子さん、会いたかった」
土方が、爽やか青年を装った顔つきで……今更そんな好青年を装っても遅い! お前の瞳孔が開いているのは既に知っているわ!
照れもせずに貴様は何て台詞を! しかも銀時の前で!
わざとか!
わざとなのか!
「……あの」
さて、どうしよう。逃げるのがいいのか? 逃げるしかないのか? だがどうやって!
その時に、少し距離を取ったことに気付いたのか、銀時が俺の手を握った。
………どきりと。した。
なんだ、この嬉しいハプニングは!
二人きりでも銀時の方から手を握ってくれるだなんて滅多にないのに! 普段からこれくらい積極的であれば今頃俺達は誰もが羨むおしどり夫婦に違いない!
「へえ、ヅラ、コイツと知り合いなの?」
ぎりぎりと………。
あの、手ぇ……痛いんですけど、銀時くん。お前は馬鹿力なんだから、けっこー本気で力入れられると俺でも痛いんですが……。
「………あの、銀時?」
……何か怒ってますか?
「てめえっ! ヅラ子さんに何しやがる」
いや、お前は口を出すな、話が拗れる気がする。
「土方さん、お知り合いですかィ?」
「てめえはひっこんでろ」
背中に流れる汗の色は嫌な色をしているに違いないだろう。
何だ、今日は厄日か? かまっ娘倶楽部には出向くハメになるし、面倒な人物と面会せねばならないし。
「銀時、そろそろ時間が」
「ああ? 知らねえよ。お前、何、この肺癌予備軍と知り合いなの?」
肺癌予備軍とは土方の事だろうか……。確かに奴が煙草を離したことを見たことがない。と言ってもそう簡単に出くわしているわけではないが。
「てめえなんか糖尿予備軍だろうが、万屋! てめえこそヅラ子さんとどういう関係だ」
「あ? てめえこそ何? 俺に断りもなく、何コイツに手ェ出してんの?」
「てめえ………」
不愉快だ。
途方もなく不愉快だ!
何でこの芋侍は俺の銀時とこんなに仲良しさんなんだ!
ので、手を放してくれないでしょうか、坂田銀時くん。
「俺は手ェ出してねえよ! ヅラ子さんがキスしてくれたくらいだ」
「…………」
「…………」
帰って良いですか?
とか……訊いても良いですか?
ああ、まずい。
果てしなくまずい。
いや、あれは油断させるために仕方なくだなあ……
とか……
「ヅラ?」
「な、何だ?」
まずい……かなり怒っている。銀時の声が異常なまでに低い。握られた手が……きっと今の銀時は胡桃を素手で割れる。
「あとでゆっくりそこんとこは訊かせて貰うから」
「…………」
まずい、怒っている。
恐ろしく怒っている。
「ヅラ子さん、アンタこの白髪頭とどんな関係なんだよ」
いや、洗いざらいぶちまけても良いですが………良いですか?
「だから俺とコイツの間にてめえの入る余地はありませんので残念でしたまたどーぞ」
「てめえには訊いてねえだろ」
「銀時……その」
あの、そろそろ行かないと。
あれほど億劫に感じていた仕事がこれほど待ち遠しいとは………。
「てめえは黙ってろ!」
そう、銀時は俺に怒鳴った。
怒鳴って、呆気なく俺の手を放して、芋侍なんぞと襟元を掴んで怒鳴り合いの喧嘩なんぞをしている。
さっきまで銀時に握られていた手が、なんだか行き場がない。
…………。
…………………
俺の前で、俺を差し置いて?
何、おまえらは俺の前で仲良くしちゃったりしてんだ?
とか。
疎外感。
いや、当事者、俺だろう?
段々と腹が立ってきた。
銀時と土方は、今にもくっつきそうな距離で胸ぐらを掴み合って怒鳴り合っているが……。
ああ……昔と同じだ。
昔も俺と銀時がせっかく二人きりで楽しんでいると、何故か高杉が銀時に突っ掛かってきて、銀時が挑発するから、結局銀時と高杉は二人で怒鳴り合いをしていて……高杉は銀時の事が好きだったのかは知らんが、銀時を勝ち取ったのは無論俺だが……何だか、仲良さそうじゃないか。
何無視してんの?
今、話してたのは俺だろうが。
何、他人と仲良くしてるんだ?
ああ………昔と同じだ。
こうやって銀時と一緒に誰かを殴るのは。
いや、今回はハイキック。
ドゴ、っと鈍い音を立てて、銀時の後頭部にキマった。
銀時がその衝撃で、土方に頭突きをして………。
二人して地面に倒れた。
ざまあみろ。
「姐さん、アンタヤりますねィ」
「お陰様で」
沖田が俺に拍手を送ってくれた。ありがとう。それほど喝采を受けるほどではない。
「散々楽しませて貰ったんで、今日は見逃してやりまさァ」
「………気付いていやがったか」
「何の事ですかィ?」
勘のいいクソガキだ。
「こっちのバカは引き取りますんで、そっちのバカは頼みまさァ」
沖田が、銀時に潰されるように倒れた土方を引きずり出し、肩に担ぐと、さも愉快げに消えていった。
末恐ろしいクソガキだ。
さて。
こんな所に銀時を放置するのも忍びないので、俺も銀時を肩に担いで、有り難いはずの後援者殿に面会するための料亭に向かった。
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090422
本当に、ノリだけで書いてたなコレ……
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